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ブルー・アイランド先生の音と絵の交叉点 22
絵と文 青島 広志
エドワード・エルガーの「愛の挨拶」
メアリー・カサットの「子供の入浴」
 家庭向きの曲という分野がある。現代で言えば、差し詰め家族団欒に流しておく音楽のことだが、半世紀ほど前は、音楽を嗜む家族で演奏する曲のことだった。教育用の初心者向き作品もこれに含まれるだろう。ピアノ教則本として使われるソナチネ・アルバムも、ケーラー(1820~1886)が編纂した当時はそれで、後半に載っているバッハからメンデルスゾーンまでの小品がその用途を物語る。
 そうした分野の代表的な作品として「愛の挨拶」がある。これまた20世紀半ばまでは曲は知っていても、何という題で誰が作曲したのかは知られていなかった。今ではヴァイオリニストなら必ずとりあげるポピュラーな曲だが、著作権の関係か楽譜も入手困難で、ついぞ実演では聞いたことのない謎の名曲だったのである。
 イギリス音楽があまり有名ではなかったこともあるだろう。何しろ「ヘンリー・パーセル以降は全く奮わずビートルズを待つしかなかった」と言われる程だったのだ。これは音楽史の最先端だけを見た悪しき概論であり、堅実であろうとする作曲家は割を食っている。 その代表例がエドワード・エルガー(1857~1934)である。彼はほぼ独学だったため、その控え目な性格も災いして、若い内は芽が出ず、専らピアノ教師として活動した。生計を立てたのは8歳年上の弟子だった妻のキャロライン・アリス・ロバーツで、陸軍少将である父を説得して夫の作曲活動を援助した。「愛の挨拶」(1888)はその返礼として妻に捧げた小品で、始めはピアノ曲として書かれたようだが、長い旋律や入り組んだ対旋律を生かすには、ヴァイオリンまたは、小管弦版が適するだろう。陰影に富んだ長い旋律線、遠隔調への転調は後期ロマン派に属しており、後半の無限旋律をまとめるには高い音楽性が必要である。愛情に溢れた作品として最上だ。
 それに匹敵するのがメアリー・カサット(1844~1926)の母子像である。アメリカ、ペンシルバニア州生まれで、1866年以降パリでピサロに師事し、ドガの影響を受けて印象派の一員となる。彼女の画風は明るく、女性であることを隠さない。最も評価されるのは本人と娘を描いた生活画で、新時代の聖母子像と見る向きもあるが、宗教色は全くなく、また印象派の奇を衒った描法で人の目を奪うこともない。中でも半裸の娘を膝の中に座らせてたらいで足を洗う母を描いた「子供の入浴」(1893)は、寒色の中で薔薇色の肌が美しく輝いている。
青島 広志 1955年東京生。作曲・ピアノ・指揮・解説・執筆・少女漫画研究など多くの分野で活動。東京藝術大学講師を41年務め、多くの声楽家を育てる。日本作曲家協議会・日本現代音楽協会・東京室内歌劇場会員。著書・出版譜多数。